微(かす)かに分かる微分法?
「微分・積分」というのを聞いたことがありますか?

高校時代に数学を学んだことのある方なら,一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。

高校に入学し,難しい計算や公式や,やれ展開だ,分解だ,サイン・コサイン・タンジェント,グラフに確率,方程式と習い続け,もうダメ,数学なんてサッパリ分からないと諦めの境地に入った頃,とどめを刺すかのように登場するのがこの「微分・積分」という分野です。

この分野,「サッパリ訳がわからない」という人がいる半面,不思議なことに「たまらなく面白い」という人も結構多く,高校数学の集大成ともいうべき,実に魅力的な要素を持った分野でもあるのです。

あまり難しい話をすると,高校時代を思い出して卒倒する方が出てきそうですので,なるべくかいつまんで簡単にこの分野のお話をしましょう。

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あまりいい例えではないかも知れませんが,古代の戦争などで「大砲」を使うことがありますね。

敵が300m先にいるとして,その地点にずばり大砲の弾を的中させるには,大砲の砲口を上空に向けてどれくらいの角度で発射すればよいでしょうか。

一般には斜め45度に向けて発射すると,弾は一番遠くに飛ぶそうですが,今回はずばり300m先を目指したいわけですから,遠くに飛ばせばいいというわけではありません。

あんまり飛びすぎるようなら,少し砲口を高くして,例えば斜め60度に向けて発射するなど,工夫が必要になってきます。

弾は砲口から飛び出した後,いつまでもまっすぐ飛ぶわけではありません。地球の重力によって,ふわーっと「放物線」を描きながら飛んでいきます。

スタートをどのような角度にすれば,目的にあった放物線ができるのか。

放物線という「全体」から,スタートのときの角度という「瞬間」を割り出す。

これが微分法の始まりといわれています。

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直線のグラフというのは,とても扱いやすいものです。

例えば中学校1年生で学習する「比例」のグラフのように,1本のきれいな直線になるような関係は,現実世界でも非常に分かりやすく分析をすることができます。

ところが世の中,直線で表される関係ばかりではありません。

面積や物体の運動のように「放物線」という2次関数で表される関係や,音や波形のように「三角関数」で表される関係もあります。いずれも曲線のグラフで表されます。

これらの関係は大変複雑であり,研究に際しても高等な技術が必要となります。

ところがこの複雑な曲線のグラフを,微分法はいともたやすく解析してくれます。

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「微分法」とは「微(かす)かな物に分ける法」を意味し,先ほど述べたように「全体から瞬間を取り出す」技術のことです。

もっと簡潔にいいますと,「複雑な曲線を,単純な直線に分解する方法」ということになります。

何と微分法とは,曲線を「直線の集まりである」と考える学問なのです。

例えば先ほどの放物線ですが,全体としてみれば確かに,つりがね型をした曲線のグラフになっています。

しかし,この放物線の上に細かくたくさんの点を打ち,その点と点を短い直線で結んでいくと,「放物線にそっくりの形をした折れ線グラフ」が出来上がりますね。

全体としてみれば曲線でも,細かい部分部分を見ると直線だと考えることができます。

そして,曲線を研究するよりも,直線を研究するほうがはるかに楽です。

微分法により,曲線は細かい直線に分解され,それぞれの場所での特徴や振る舞いが「直線として」簡単に研究できるようになるわけです。

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ここまでの話を聞いて,「曲線を直線に分解して研究することに,そんなに意味があるのかな?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。

大いにあるのですよ。

微分法による一番の恩恵は,「瞬間の研究」が可能になった点です。

例えば皆さんが車で80キロ先の目的地までドライブするとき,もし2時間かかったのであれば,あなたは時速40キロで走ったことになります。

しかし,これはあくまで平均の速さです。目的地に着くまで,市街地で速度を落とすこともあれば,信号で止まることもあります。ずーっと定測の40キロで走ったわけではありません。目的地に着くまでの間,あなたの車の速度は絶えず細かく変化しています。

あなたがハンドルを握っているその瞬間瞬間にも,速度は絶えず変化し続けています。速度メーターを見ればそれが分かるはずです。それが,瞬間の速さです。

今回のドライブを「全体として,時速40キロで走った」と分析するよりも,「この瞬間には時速30キロ,この瞬間には時速60キロ・・・」と分析できたほうが,より細かく状況を知ることができますよね。

では,どうして車のメーターは,刻一刻と変化する瞬間の速さをきちんと表示することができるのでしょう?

・・・それは,速度の変化を細かく分けて,直線のグラフとして計算をしているからです。

車に限らず,長い時間をかけて変化する物の,ある瞬間を捕まえて分析することができるようになったのは,この微分法の研究の賜物です。現在では長期的に変化する気象から,今日の天気を読み取ったり,ある場所での風の向きを読み取ったりということもできるようになっています。

微分法は,生物学における「顕微鏡」のような役割を果たしてくれているのです。

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ちなみに,微分法の逆として有名な「積分法」は,瞬間から全体を作り出す方法です。

これは大変素晴らしい方法で,何と「今この瞬間の様子」を見ただけで,「これから先の全体の動き」まで知ることができてしまうものです。

積分法については,またの機会にお話しましょう。


日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』第1919号掲載