四角形の仁義なき戦い
四角形にはいろいろな種類がありますね。

長方形,正方形,台形,ひし形,平行四辺形など,特徴によっていろいろな名前がつけられています。

ところで,ヘンな質問をするようですが,今上に挙げた5つの四角形のうち,一番「偉い」四角形は何だと思いますか?

あるいは,「偉い」順番に並べると,どのような順番になると思いますか?

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何をもって「偉い」と呼ぶのかは,その人の考え方次第なのかもしれませんが,私が今言いたいのはこういうことです。

例えばあなたが四角形だとして(無茶な設定ですね〜),今からある集まりに参加したいとします。

「四角形」という集まりに参加したければ,あなたは「4本の直線で囲まれている」という条件を満たしていなければなりません。

「台形」という集まりに参加したければ,あなたは「4本の直線で囲まれていて,さらにそのうちの1組(2本)が平行」という条件を満たしていなければなりません。

どちらの集まりに参加する方が難しいでしょうか。

もちろん,「台形」の方ですね。

正確にいえば,「台形」の集まりに参加する資格がある人は,みんな「四角形」の集まりに参加する資格があるわけです。

「台形」は「四角形」の中にある,より特別な集まり

だといえます。そういう意味で台形は四角形よりも「偉い」と呼ばせてください。

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では,「台形」と「平行四辺形」ではどちらが偉いでしょうか。

「台形」への入会条件は「1組の辺が平行」であること。

「平行四辺形」への入会条件は「2組の辺が平行」であること。

入会条件だけ比べれば,明らかに「平行四辺形」の方が条件が厳しいですね。さらに,「平行四辺形」に入会できる人なら,みんな「台形」に入会できることもお分かりですか?

平行四辺形は,台形の特別な場合なのです。

広い意味で「台形」といった場合,その中には「平行四辺形」も含まれていることになります。台形という「組織」の中の,1つの派閥が「平行四辺形」であるともいえますね。

以上のことから,平行四辺形は台形よりも「偉い」と呼べそうです。

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この調子で調べていくと,平行四辺形の特別な場合として「長方形」があります。

平行四辺形がさらに「4つの角が全て直角」という条件を兼ね備えたとき,初めて長方形になることが出来るからです。

つまり,長方形は,平行四辺形という「組織」の中の,1つの「派閥」であるといえます。

さらに,長方形に「4つの辺が全て等しい」という条件をつけると,「正方形」になります。正方形は長方形の特別な場合です。

ここまでの「偉さ」の順位を書いてみると,

D四角形 → C台形 → B平行四辺形 → A長方形 → @正方形

となります。右に行くほど,入会するための条件が厳しくなり,特別度が上がります。逆に,左に行くほど「組織」としては大きくなります。

分かりにくくなるかもしれませんが,動物でたとえると,

生物→動物→哺乳類→イヌ科→ブルドッグ

みたいな状態になっているわけです。

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・・・とここまで,四角形に系統立てた序列をつけてきたわけですが,気がついた方もいらっしゃるかも知れません。

「ひし形はどこに入るんだ?」

ひし形とは,4つの辺が全て等しい四角形です。

もちろん四角形の仲間ですから,上のDよりは偉いです。ひし形は「1組の辺が平行」という条件を満たしていますので,Cよりも偉いです。さらに,「2組の辺が平行」という条件もクリアしますので,Bよりも偉いことになります。

結構「偉さ」としては上位に食い込む四角形なのです。

かといって,@の正方形ほどは偉くありません。ひし形に「4つの角が直角」という条件をつけてやっと正方形になれるくらいですから,ひし形は@よりも順位が下です。

となってくると,Aの長方形とひし形のどっちが偉いのか,ということになってきます。

ところがこの2者,どちらも一歩も譲らないのです。

長方形が平行四辺形よりも優れているのは「4つの角が全て同じ(直角)」であること。

ひし形が平行四辺形よりも優れているのは「4つの辺が全て同じ」であること。

「ひし形」に入会できる人が「長方形」に入会できるわけではないし,その逆も同じ。

つまり,ひし形は長方形の特別な場合ではないし,その逆も同じです。

ひし形も長方形も,あと1つ条件を加えるだけで「正方形」になれます。

・・・と以上のように,お互いにどちらが「偉い」と言い切れず,引き分けに終わる関係なのです。

               /A長方形\
D四角形→C台形→B平行四辺形      @正方形
               \Aひし形/


先ほど動物の例で

生物→動物→哺乳類→イヌ科→ブルドッグ

という例えを出しましたが,考えてみれば「イヌ科とネコ科はどっちが偉いのか」という論争をやってるのと同じことで,結論が出ないのも当たり前です。

分類学上は「引き分け」と考えるべきで,「長方形」と「ひし形」は,図形的には全く「同レベルな」ものだといえるのです。
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このように図形を分類することに何の意味があるのか? といわれると困ってしまいます。正直,数学的にそんなに役に立つことではないからです。

しかし,現行の中学校2年生の数学の教育課程では「ひし形は平行四辺形の仲間である」「正方形は長方形の特別な場合である」という指導がなされています。

一昔前は「正方形と長方形は全くの別物だ!」という風潮がありました。

子どもに真四角な折り紙を見せて,これは何ですか?と聞いたとき,子どもが「長方形!」と言ったら間違いだと言われたわけです。

あるいは,ひな祭りの菱餅をみて,子どもが「これは平行四辺形だ!」といったら,それは間違いだよ,と言われてしまっていたわけです。ひし形だって平行四辺形の仲間であるにもかかわらず,です。

これは,「ブルドッグはイヌ科ではありませんよ」と教えているのと同じです。このような指導をするよりは,きちんと図形に系統性をつけ,包含関係のあるグループとして指導することに,大きな意義があったのだろうと私は思います。

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ちょっと堅い話になりましたが,理屈はともかく,図形にも「偉さ」があるなんて,面白いと思いませんか?

ちなみに私のクラスで「ひし形 vs 長方形」の話題になったとき,大変紛糾してああでもない,こうでもないと子どもたちが議論した挙句,「ひし形の方が偉い」という結論に至りました。

理由は,ひし形は菱餅に似ていて美味しそう!ということでした。

3月に授業をした影響が色濃く出てしまう結果となりました。

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』第1919号掲載