まずそもそも,ラジアンとは何かを確認しておきます。
定義は「円周上で,その円の半径と同じ長さの弧を切り取る2本の半径がなす角の値」
となっています。分かりにくいので半径1cmの円で考えると,
「弧の長さが1cmの扇形の中心角=1ラジアン」
だということです。まだわかりにくいと思いますのでもう少し具体的に言えば,半径1㎝の円の円周全体は2π(cm)ですから
「弧の長さが2π(cm)の扇形(円全体)の中心角=2πラジアン=360°」
ラジアンとは,半径1の円(単位円)の円周を,角度とみなした読み方なのです。
180°は,円の半分の大きさの扇形の中心角だから,その弧の長さはπ(ラジアン)
90°は,円の4分の1の大きさの扇型だから,その弧の長さはπ/2(ラジアン)
30°は,円の12分の1の大きさの扇形だから,その弧の長さはπ/6(ラジアン)
という理屈になるわけです。とりあえずは,
半径1の円の円周が2πだから,360°=2π(ラジアン)
ということさえ押さえておけば,あとは比率で他の角も表せるでしょう。
このように,円の弧長を「角」とみなす方法を「弧度法」と呼び,弧度法で用いる角度の単位を「ラジアン」と呼んでいるわけです。
ラジアン(弧度法)を始めて学習するのは,高校数学の「三角関数」分野でしょうか。
あれ,ホントに突然登場しますよね。
45°はπ/4,120°は2π/3,330°は11π/6,…
のように,角の読み替えではじめは本当に苦労します。
そしておそらく誰もが感じることは
「何でラジアンなんか使わなきゃいけないの?」
ということではないでしょうか。今までの「度」の方が分かりやすいし慣れていますもんね。
これから先も「度」を使い続けると,何か困ることがあるのでしょうか…
ラジアンがないと困る,というよりも,ラジアンがないと不便だという場面は結構あります。
と言っても,高校数学でいえば数学Ⅲ以降の話になりますし,数学全体では「解析学」(微分積分)の分野です。
生徒の皆さんが最初に習うのは「扇形公式」でしょう。
扇形の中心角θをラジアンにするだけで,扇形の弧の長さは「rθ」という,ビックリするくらい簡単な公式になります。
もう少し難しい例だと,三角関数の微分。
y=sin xを微分するとy’=cos xとなりますが,これはxがラジアンの時のみの話です。
もしxが「度」の状態でy=sin xを微分するとy’=(π/180)cos x といった具合に,妙な係数が発生します。微分の定義の話になるので,数学Ⅲを学習していない方には恐縮ですが,有名な公式
lim(x→0)sin x/x=1
が,ラジアンでなければ成立しないのです。
これらは大学で学習するテイラー展開(ひいてはマクローリン展開)で三角関数を多項式で近似する公式にも影響を与えますし,数学で最も美しいといわれる「オイラーの公式」
eπi=-1
等も,ラジアンあっての賜物です。
ただし繰り返しになりますが,これらはあくまで「ラジアンがないと不便」というだけであって,「ラジアンがないと困る」わけではありません。微分もテイラー展開も,「度」を用いて定義することはできます。(面倒な式にはなりますよ~)
本当の意味で,「ラジアンがないと困る」場面はあるのでしょうか…
端的にわかりやすい場面があります。下の図をご覧ください。
これは y=sin x のグラフです。
この図の上に重ねて,直線 y=x-1をかいてみていただけますか?
・・・
困ってしまいませんか?
だってy軸は実数ですが,x軸は「度」で示されています。
縦軸と横軸で「尺度」というか「単位」というか,そういった基準が異なっているので,この座標軸の上に三角関数以外のグラフをかくことは困難です。
角度の30°と,長さの30は同じではありません。
45°と実数12のどちらが大きいかと聞かれても困ってしまいます。
「度」とは360°を基準としてそれを細かく分割したものであるのに対して,「実数」は0を原点とした数直線上に存在しているものです。
30°を実数の数直線上に置くことはできないわけです。
数学で1つの座標平面にグラフを複数かいて,交点や面積を求めることがありますよね。中学校でも2本の直線の交点の座標を,連立方程式で求めたりすることがあります。
「度」で定義された三角関数のグラフは,一般のxy平面上に,他のグラフと一緒に書くことができないわけです。これはなかなか困った問題です。
小学校から中学校・高校へ,「算数」から「数学」に変わると「単位」をあまり使わなくなりますね。省略するようになります。
小学校の算数では,単純計算以外の問題に必ず「単位」をつけて考えます。
ひもの長さは3m,ジュースが2L,広さは15km2,速さは時速40㎞・・・
身近な具体例を用いて計算するという目的もありますが,小学校算数で用いる数はほとんどが「量」として取り扱われています。
中学校数学になると,現実社会に即した文章問題を除き,単位を用いる場面が少し減り,高校数学では単位を用いることがほとんどなくなります。
数を量として取り扱う場面が減ってくる,という理由もありますが,量としての数でさえ,
辺の長さは6,三角形の面積は10,四面体の体積は32
のように,一切単位を使わずに話が進んで行ったりします。実際,数学で用いる多くの公式は単位がなくても成立しますしね。
そんな中,「度」という単位は結構しぶとく,高校2年生くらいまで残ります。下手をすると大学以上の数学でも併用されたりして用いられ続けます。
なぜ,省略しないのでしょうか。
面積や体積のように,強引に単位だけ取ってしまってもよさそうですが,「度」という単位では基本的に用いる数が大きいという問題点があります。
これは直感的な話になってしまうので恐縮ですが,例えば,
「1辺の長さが5cmの,正方形の面積は25cm2,立方体の体積は125㎝3」
という事実について,仮に単位を省略して
「1辺の長さが5の,正方形の面積は25,立方体の体積は125」
といったとしても,数値同士であまり違和感を感じないのではないでしょうか。
「まあ,面積は長さより大きいだろうし,体積はもっと大きいだろうし,こんなもんかな…」
と思ってはもらえないでしょうか。
ところが,「半径が6㎝,中心角が30°の扇形の弧の長さはπ(≒3.14)cm,面積は3π(≒9.42)cm2」
という事実から単位を省略して
「半径が6,中心角が30の扇形の弧の長さは3.14,面積は9.42」
といった場合,ちょっと違和感がありませんか?
他の数値と比べて,「30」という数値は感覚的に大きすぎませんか?
30°って,そんなに大きな角度じゃないですよね。むしろ角の中では小さい方です。
「長さ」や「面積」や「体積」といった量に比べて,「角」という量で用いられる数はちょっと大きすぎるので,そのまま単位を省略すると「計算感覚」として違和感が生じてしまいます。
その点ラジアンであれば,角度を円周の長さと同一視しますので,比較的直観的にも納得のいきやすい量になります。
180°=π=3.141…
30°=π/6=0.523…
1°=π/180=0.017…
180°という角は大体3くらいで普通の大きさ,30°は結構小さめの角でだいたい0.5くらいの大きさ,1°はかなり小さな角でだいたい0.02くらいの大きさ,
感覚としてしっくりきませんか?
実際,ラジアンを導入した後は,「角」としての単位は省略します。
いちいち「πラジアン」とよばずに,単に「π」と呼ぶようになりますから,ほかの量と同一に,実数の一つとして扱うことができるようになります。
さっきの三角関数のグラフも,x軸をラジアンにすることで,他の関数を重ねて書いたりすることができるようになりますし,先ほど述べたようにラジアンを用いると微分公式が簡略化でき,関連する解析学分野でいいことがたくさんあるわけですから,高等数学においてはラジアンを用いるメリットは大きいのだろうと思います。
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今回は私見や感覚が大いに入った記事となってしまいました。
ラジアンを用いる理由については様々な見解があり,今回の記事はあくまでも私の一意見であるということを補足させていただきます。
数学では様々な定義や記号が登場し,時には無意識に,深く考えずに使っていることも多いと思います。しかし,それらが使われているのにはそれなりの理由が必ずあります。
時には立ち止まって,「どうしてこうなったんだろう」
と考えてみることが,より理解を深めることにもつながっていくのかもしれません。
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