時の「乱れ」に身を任せ 〜でたらめな数「乱数」
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年の瀬も押し迫り,まもなく新しい年を迎えます。

今年の漢字は「変」。

他にも「乱」,「揺」など揺れ動いた世相を象徴する漢字が多数ノミネートされていたとのことでした。

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年末の準備もしなきゃなぁ・・・と,12月のカレンダーをふと眺めてみると,私の悪い癖ですね。そこに隠されたさまざまな「法則」に目がいってしまいます。(忙しいのに・・・涙)

 〔2008年 12月〕
      1  2  3  4  5  6
   7  8  9 10 11 12 13
  14 15 16 17 18 19 20
  21 22 23 24 25 26 27
  28 29 30 31

皆さんはどんな法則を見つけることができますか?



もっとも,法則といってもそんなに難しいことではありません。

例えば「右に進むと数字が1増える」とか,「下に進むと数字が7増える」とか,そういうことです。

な〜んだ,そんなことならたくさんあるよ! と思われた方も多いことでしょうね。


他にも,

「右下がりに斜めに進むと数字が8増える」

「左下がりに斜めに進むと数字が6増える」

「日曜日の日付は必ず7で割り切れる(この月限定の法則)」

「縦でも横でもいいから3つの連続する数字を選ぶと,真ん中の数は残り2つの平均になっている」

などなど,カレンダーの数字の集まりは,さまざまな規則や法則の「宝庫」なのですね。
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一方,次の数字の集まりはどうでしょうか。

  14 24 12 30 23  7  2
  10 11  2 28 23 14 10
   4  2 26  8 23  2 19
  24 21 33 15  7  0  4
   6  2 23 19 16 10  7

同じ数字が何個か含まれていますが,それ以外にこれといった規則がないのがお分かりいただけるでしょうか。

この表は0〜33までの数字をランダムに並べた「(擬似)乱数表」といいます。EXCELで作成しました。

「乱数表」という言葉は耳慣れないかもしれませんね。



例えば次のように,幾つかの数字が並んでいたとします。

 1 3 5 7 9 11・・・

この次に何が来るかは予想できるでしょう? おそらく「13」でしょうね。



ある程度の規則をもった数列なら,次に来る数も簡単に予想できるわけです。

では,次の場合はどうでしょう。

 14 24 12 30 23 7・・・



次に来る数字が予想できますか? さっぱり分からないのではないですか?

どうして予想できないかというと,この数列にほとんど何も規則がないからです。


このように,次に何が来るのかまったく分からない,デタラメで何の規則もない数字の表を「乱数表」といいます。

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ところがこの乱数表,作るのはとても難しいのです。


皆さんもぜひやってみてください。


紙と鉛筆を準備して,「デタラメに」0〜9までの数字を10個書いてみてください。同じ数字を何回使ってもかまいませんよ。

できればこの作業を5回ほど繰り返していただくと理想的なのですが,年末でお忙しいでしょうから無理は申しません。




・・・できましたか?

本当にデタラメかどうか,チェックしてみましょうか。

例えば・・・

 ・無意識に0とか1とか2といった,小さい数からスタートしていませんか?

 ・0が真ん中あたりに登場していませんか?

 ・律儀にすべて違う数字を使っていませんか?

 ・同じ数字をあんまり使っていないのではありませんか?

そして何より,「なるべくデタラメに並べてやろう」と,無意識のうちに考えてしまいませんでしたか?

考えてしまったということは,あなたの何らかの思惑が入ってしまったということ。

もう,その時点で「まったくのデタラメ」とはいえないのですね。


そういう意味では,人間自らが乱数を作るのはとても困難だということになります。「心を無にして」数字を書くことのできる人間はほとんどいません。さいころでも転がさない限り,私たちはデタラメを作ることはできないのです。


仮にコンピュータを使って乱数を作るにしても問題があります。

コンピュータは数式とプログラムに支配されています。だからコンピュータが作り出す乱数にも,何らかの規則が含まれてしまっている可能性があります。

先ほど私は「(擬似)乱数表」という書き方をしましたが,「擬似」というのはそういう意味です。完全とは言い切れないよ,ということなのです。

本当の意味で「理想的なデタラメ」というのは,数学的に実に難しいものなのです。




・・・でも,乱数なんて何の役に立つのでしょうか。

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世の中は乱数であふれています。


例えば先月もテーマにした「宝くじ」。ナンバーズやロト6の当選番号は抽選で決められていますので,毎回の当選番号は乱数だといえます。もし当選番号に法則があったら,次に当たる番号が予想できてしまい,宝くじは成り立ちません。


すごろくや人生ゲームなどで,さいころやルーレットを使います。そのとき出てくる番号も乱数といえるでしょう。もし次に出てくるさいころの目が予想できてしまったら,ゲームは面白くもなんともありません。


マスコミがよく行う世論調査では,「RDD(ランダムデジットダイヤリング)法」という方法がよく利用されています。これはコンピュータで電話番号の「乱数表」を作り,そこに電話をかけてみて,つながったところを調査する,という方法です。もしこの乱数表に規則ができてしまったら,特定の地域だけに電話がかかってしまい,正しい調査結果が出ないことになります。(このRDD法にも大きな欠点がありますが,今回はこのくらいで。)


何より私たち人間そのものが完全な「乱数」だといわれています。もしも私たちのDNAに番号をつけたとしたら,その番号はデタラメな並びになるという研究者もいるそうです。

乱数とは,人間の個人的な思い込みや法則が一切働かないものですから,法則が働かない現象や,厳密な平等が求められるときには大きな威力を発揮します。「デタラメ」の考え方は,私たちの社会の至る所で無くてはならないものとなっているのです。

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我々の日常には,規則や法則があふれています。

カレンダーや時計によって私たちの時間は法則付けられ,法律や規則により,私たちの行動は統制付けられています。

もちろん,それはとても大切なことです。



今年の漢字は「変」。

ノミネート候補「乱」などにも代表されるように,大きく世の中が混乱し,揺れ動いた1年でした。

社会の規律や道徳を犯し,悲しい事件や出来事も相次ぎました。


数学でいう「デタラメ」は「あらゆる法則を超越した,本当に平等な世界」。

この理想郷にさまざまな法則を導入し,規則を当てはめていくことで数学は作り上げられてきました。


なんだか人間の社会と似ている気がしませんか?



予想のつかないデタラメな現象を何とか分析し,法則を当てはめ,原因を究明しようとする姿は,現在の世相と重なるようが気がしています。

世の中がデタラメでは困ります。でも,そもそも私たち自身が「デタラメ」な存在。

どんなことにも法則を求め,法則が見つからないからといって「最近の世の中は分からない」と嘆き,暗い気持ちになっていたのでは,私たちは前に進めないのではないでしょうか。


世の中には「デタラメ」な現象がいくらでもあります。

それは決して不幸なことではなく,私たち,そして私たちが理想とする世界の宿命だと思うのです。



数学とは実におおらかで,前向きな学問です。

「デタラメから何かが生まれることがある」

なんて,とても魅力的な考え方だと思いませんか。


嘆くばかりではなく,世の中を冷静に見つめ,分析すべきは分析し,それが無理ならありのままの姿を受け入れて楽しむ。


そんな「数学的姿勢」,私は好きです。






今年も1年,お世話になりました。

皆様が楽しい年が迎えられることを,心からお祈り申し上げます。
2008年12月 日刊「中高メールマガジン」掲載分


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