1.内積が「3」って…どういう意味があるの?
ベクトルを学習すると必ず「内積って何なんだ!?」という疑問に直面すると思います。
ベクトルの和,差と習ってきたから,次は掛け算や割り算でも習うのかな?と思ったら「ベクトルには掛け算はない!」と言われ,「変わりにこんなのがある!」ということで突然導入されるのが内積という概念です。
まずは復習ですが,2つのベクトルa→とb→の内積は,
a→・b→=|a→| |b→|cosθ
で定義されます。θは2つのベクトルの始点をそろえたときにできる「なす角」です。
例えば右の図のような場合,a→とb→の内積は 2×3×(1/2)=3ということになります。
しかしいったい,この「3」という数値は何を意味しているのでしょうか。
2.内積は「仕事」や「貢献度」を表す
内積は「b→が,a→の方向に,a→と共に行った仕事の量である」という説明ができます。
右のような例で説明しましょう。
ゴールを目指してレースをしているヨットがあるとします。このヨットは風速1mの風で3m進むことができる性能を持っているとしましょう。つまり,風速10mの風が吹けば,30m進むことができるわけです。
しかし,風というのは気まぐれですから,必ずしもゴールに向かって真っ直ぐ吹いてくれるとは限りませんよね。図のように,ゴールに向かって60°の角度で,風速2mの風が吹く場合もあります。
この場合,せっかく2mの風が吹いていても,実際にゴールに進むのに役立つ風は1mしかありません。(2×cos60°=1)
ですからこの場合,ヨットは1×3で3mゴールへ近づくことになります。
このときb→という風は,a→の方向に3m分の仕事をしたことになりますね。ゴールするために,3m分だけ貢献した,とも言えるかもしれません。この「3m」という数値こそがa→とb→の内積なのです。
もし風速2mの風がゴール方向へ吹いていたらなす角0°ですから,内積は 2×cos0°×3より「6」。つまりこの風はヨットに対して最大限の仕事をしてくれたことになります。貢献度でいうとMAXです!
ゴール方向に対して垂直に吹いていたら,この風はゴールに進むために何の役にも立たないですよね。このことは内積にもきちんと現れてきます。
なす角が90°ですから,内積は 2×cos90°×3より「0」。
「垂直ならば内積が0」というのはよく問題演習でも使う事実ですが,片方のベクトルがもう片方のベクトルのために何の仕事もしていない,つまり,ちっとも貢献できていないことを意味しているのです。
なす角が120°の状態で風が吹いたらどうでしょう。内積は 2×cos120°×3より「-3」ということになります。これは,この風がゴールへ進むのを「邪魔している」ことを意味します。だから,負の数が出てくるわけです。
内積の公式a→・b→=|a→| |b→|cosθの右辺は,下の色分けのように,
|a→|×|b→|cosθ
と分解して読むとよいでしょうね。
|b→|cosθという部分で,風b→が,a→の方向にどれだけの影響を与えるかを計算していたのです。
3.内積の数学的な意義
さて,ベクトルという分野にとって,内積を定義することには2つの意味があります。
① 幾何的な意味
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② 代数的な意味
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物理分野ではおなじみの内積。数学的な意味について非常に多くの問い合わせをいただいてましたので,ここにご紹介しました。
コメント
高校の時に、内積の公式は習いましたが、何の意味があるのか分からずに、機械的に、問題を解いていました。
|a|*|b|*sinθでなくて、なぜ、|a|*|b|*cosθなのか?
ax*bx – ay*by、ax*by +- ay*bx とかが存在しなくて、なぜ、ax*bx + ay*by なのか、と気になっていました。
このページで、初めて、意味が分かりました。
有難うございます。
同じような出自の疑問は、テーラー展開とか、フーリエ級数に関して、今も抱いています。
ガンマ関数だけは、階乗の一般化と言う事で、納得出来ました。
すっと頭に入ってくる解説ありがとうございます。
数式と、現実世界がリンクしました。
cos90の場合は機械的に0だと覚えていましたが、腑に落ちました。
「変わりにこんなのがある!」
代わりに
このヨットは風速1mの風で3m進むことができる性能を持っているとしましょう。
よくわからないが風速1mの風で1秒間に3m進むということかな。
うわあああ天才だ!!めちゃくちゃわかりやすいです!!数学の参考書一つ一つの意味を理解しないと次に進めない病患者だったので本当に助かりました!!内積の意味と存在意義がわかってスッキリしました!ありがとうございました!!!