ゾウリムシの地球侵略 ~指数関数・倍倍ゲーム

数学まるかじり

ゾウリムシっていう微生物をご存知でしょうか?


小中学校の理科でも学習する有名な水生微生物で,草履のような形をしており,表面には細かい繊毛がいっぱい生えています。


大きさは0.1~0.4ミリだそうですから,髪の毛よりも細いくらいの小さな体。顕微鏡じゃないと見えませんね。


当然,身の回りの池や水たまりにも普通にいるそうです。おそらく,地球上にはおびただしい数のゾウリムシが暮らしていることでしょう。


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さて,ここからが数学の話。

 


あるところに1匹のゾウリムシがおりました。

 

 

実際の彼らの生態がそうなのかは知りませんが,このゾウリムシ,20分に1回分裂して,2匹になるとします。


つまり40分後には4匹,60分後には8匹・・・という風に,20分おきに個体数が2倍になっていくわけですね。

 

 

話を理想的な状態にするため,このゾウリムシたちは途中1匹も食べられたりせず,水のない所でも死ななかったとしましょう。

 

 

では問題です。


24時間経ったとき,このゾウリムシはどれくらいの量に増えているでしょうか?


次の5つの中からお選びください。


(1)ビーカー(200ml)にすりきり1杯分


(2)バケツ(家庭用)にすりきり1杯分


(3)ドラム缶にすりきり1杯分


(4)25mプールにすりきり1杯分


(5)もっとたくさん

 

 

「すりきり1杯」というのは,純粋にゾウリムシの体だけでびっしり,という意味です。池の水などは含まれていないと思ってください。

 


みなさん,答えは決まりましたか?

 

 

ちなみに,自分が数学を受け持っているクラスで同じ質問をしたところ,一番多かったのは(2)でした。


バケツにびっしりゾウリムシが詰まっている状態は気持ち悪くてあんまり想像したくありませんが,顕微鏡レベルの小さな微生物ですから,いくらなんでも1日経てばこれくらいのもんだろう,という意見でした。

 

 

(5)と答えた生徒も少数ですが,いました。その中では,「東京ドーム1杯分」という答えが一番大規模でした。


現在プロ野球において阪神と壮絶な首位争い
(興味のない方,すみません)を繰り広げている巨人にしてみれば,自分のホームグラウンドが微生物にのっとられてしまう状況は,ペナントレースの行方を左右する由々しき事態といわなければなりません。

 

 

さて,正解発表にうつりましょう。

 

 

わざわざこんなところで取り上げているトピックスですから,もちろん答えは(5)です。

 

 

「え? 25mプールにびっしり入れても足りないの!?」

 

 

とショックを受けている方のために,実際どのくらいの体積になるのか,計算してみることにしましょう。

 

 

計算が嫌いな人は,以下,とばして読んでも構いません。

 

 

—————————–(計算ここから)——————————–

 

 

まずゾウリムシの体積は「0.0001立法ミリメートル」だとします。


ゾウリムシが直方体だったと考えて,一番小さいタイプ,0.01×0.01×0.1ミリメートルのサイズの体積です。


(ちなみに,「1立方ミリメートル」は1つの辺が1ミリの小さなサイコロの体積です。ゾウリムシの体積は,これよりはるかに小さいことになりますね)

 

 

はじめ1匹だったゾウリムシは,20分に1回分裂しますから,1時間で3回分裂し,個体数は1時間で2×2×2=2の3乗(匹)になります。(要するに8匹ですが,後の計算のためこのままにしておきます)


更に24時間経つと


(2の3乗)の24乗=2の72乗(匹)


という数になりますので,最終的なゾウリムシたちの体積は


2の72乗×0.0001立法ミリメートル


と計算できることになります。

 

 

「立方ミリメートル」という単位は小さすぎますので,「立方キロメートル」になおします。これは,1km四方の巨大なサイコロ一個分の体積です。

 

 

   1立法キロメートル=10の12乗立法ミリメートル

 

 

ですから,ゾウリムシたちの体積は

 

 

   2の72乗/10の16乗 立法キロメートル

 

 

です。

 

 

・・・と言われても全然ピンと来ないでしょうが,これ,相当大きな数になります。


それを分かっていただくために,これだけの量のゾウリムシを地球表面に敷き詰めることを考えましょう(うぇ~・・・気色悪)。


地球の半径は約6350kmですから,表面積は5.06707×10の8乗 平方キロメートル。


これでさっきの体積を割れば,地球表面に敷き詰めたときのゾウリムシたちの積もった厚さが分かります。その計算結果は・・・

 

 

   (2の72乗/10の16乗)÷5.06707×10の8乗=0.0009311971km=0.9311971m


=約93cm

 

 

—————————–(計算ここまで)——————————–

 

 

ややこしい計算の結果,結論が出てしまいました。


ということで,答えは(5)で,その量は,

 

 

  地球表面を厚さ約93cmで覆い尽くすくらいの量

 

 

ということになりました。


これではまさに,地球がゾウリムシにのっとられた状態です。

 

たった一匹のゾウリムシが20分に1回分裂するだけで,24時間後には理論上,こんなことになってしまうわけです。


ここまで来ると,もはや「ジャイアンツが大変だ」とか言っている場合ではなく,我々の日常生活が全て崩壊してしまう重大な事態です。

 

 

まして地球上にいるゾウリムシは1匹じゃないですから,放っておくとこんなもんじゃ済まないはずなんですが,実際そんなことにならないのは,自然に死んでしまうゾウリムシがいたり,これだけの量のゾウリムシを食べてくれる他の生物がいるからです。


倍々ゲームの恐ろしさを感じるとともに,自然界の生態系が如何に優れているかを実感させられます。もしも食物連鎖がなかったら,私たちはゾウリムシの海に腰までつかりながら生きていかなければならないのですから・・・


今日も平和をありがとう。とても変わった視点から,環境は大切にしていかなければ,と痛感する次第です。

 

 

ま,私だけかも知れませんが・・・

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