円があったとして,この中心はどこですかと言われたら,誰でも同じようなところを指差すことができるはずです。
円とその中心とは,お互いに強いつながりを持った関係にあります。
正六角形の中心はどこですか?と聞かれたときも,割と簡単に答えることができるのではないでしょうか。
3本の長い対角線で正六角形を6枚の正三角形に分けたとき,中央にできる交点が正六角形の中心だと言えるでしょう。
では特になんの特徴もない,普通の三角形があったとします。正三角形とか,直角三角形とかいう,きれいな三角形でなくても構いません。
この三角形の「中心」はどこですか?
と尋ねられたら,どのように答えればよいのでしょうか。
最近は少なくなってきたそうですが,実はこの問題,一昔前までは小・中学校の算数・数学の授業でよく扱われてきたテーマです。
中心とは,「まんなか」,「物事の集中する場所」,「重要な意味をもつ場所」といった意味で用いられる言葉ですから,
「三角形の中心」
とは,「三角形において,重要な意味をもつ点」と考えてよさそうに思います。
問題は,何をもって重要だと考えるかになります。
小学生に三角形の板を渡して考えさせると,多くの子どもたちが1本の指で三角形を下から支えて,バランスをとろうとするんだそうです。
この場合はヤジロベーのように,ぴたりと支えることができる点を「重要な点」だと考えることになります。
これは三角形の重さが集まる点ということで「重心」と呼ばれます。
先ほどの円や正六角形の中心も,この「重心」となっていますので,円や正六角形を指1本で支えることができます。
「重心」は,三角形の「中心」と呼ぶにふさわしい点の一つだといえます。
重心は,いちいち指で支えて確かめなくても,紙の上で作図することができます。
三角形の3つの頂点から,その向かい側にある辺の中点に向かってそれぞれ線を引くと,見事に1点で交わります。ここが重心となることが知られています。
記事「三角形の重心,四角形の重心・・・」参照
ところで,重心とは重さに着目したときの中心ですが,着目の仕方は他にもあります。
「中心というからには,円が関係していてほしい」
という考え方もできます。
正六角形の中心にコンパスをあてて円をかくと,正六角形の頂点は全て円周の上に乗り,正六角形は見事に円に内接します。
このように,図形を包み込む円のことを「外接円」といいますが,この外接円の中心を,その図形の中心だと考えるとどうでしょう。
でたらめに書いた三角形の場合,重心は外接円の中心にはなりません。
重心にコンパスをあてて円をかいても,三角形の頂点の全てが円周の上には乗らないのです。
外接円の中心となる点を「外心」と呼びます。
三角形の外心は,重心とはまた別の位置にあります。詳しい説明は省きますが,3つの辺の垂直二等分線が交わったところにあります。
外接円とはその図形を包む大きな円のことでしたが,その逆に,図形の内側にぴたりと接する小さな円もあります。
これは「内接円」と呼ばれます。
内接円の中心を「内心」といいます。この内心は,重心,外心とはまた異なる点です。3つの角の二等分線が交わるところにあります。
何だか中心になりそうなものが3つも出てきてややこしくなったな,とお思いでしょうね。
視点を変えると,何が重要かも変わってきますので,それに伴っていくつも中心が出てくるわけですが,誠に恐縮です。あと2つあるのです。
1つは「垂心」。
これは,各頂点から向かい合う辺に向かって垂線を引き,それらが交わった点です。
もう一つは「傍心」。
三角形の3つの辺を直線だと考えて延長したとき,3本の直線の全てに接する円が4個ありますが(三角形の中に1つ,外に3つ),この外側にできる円の中心になります。
重心,外心,内心,垂心,傍心。
この5つの「中心」を,三角形の五心と呼んでいます。
中心の「心」は,「芯」とかかれる場合もあるようです。
この場合は「ものの中,中央」という意味で,やや物理的な意味が強くなるようですが,私は「心」の方が好きです。
三角形には「心」がある。しかも5つも。
なんだか,無味乾燥な幾何学図形にとても暖かみを感じませんか?
コメント
30代の技術者です。技術士の資格取得に向け改めて、このあたりも再勉強しているのですが、これら五心の工業分野の使われ道ってなんでしょうか?
重心は使いそうですが…他は何に使うんだ?と疑問が湧きました。
何か使い道があるから定義され存在しているんだと思うのですが…もしご知見ありましたら教えて頂きたいです。
初めまして。コメントありがとうございます。
私も詳しいわけではありませんが,調べてみたところ幾つか見つかりました。
1.「材料を効率よく取り出す」ための活用
「三角形(が組み合わさった図形)の板からなるべく大きな円盤を切り出す」→内心
「円形の板(木の切り株など)からなるべく大きな三角形を切り出す」→外心
2.「回路や配線の最短問題」
「公園の街灯問題」というのが有名ですが,
特定の3地点を同じ明るさで照らしたい場合,どこに街灯を立てればよいか。→3地点を結ぶ三角形の外心
特定の3直線上の点(接点)を同じ明るさで照らしたい場合,どこに街灯を立てればよいか。→3地点を結ぶ三角形の内心
これを応用し,特定の4地点,5地点…と地点数を増やしたりして考えることができる。
この「公園の街灯問題」は,複数地点を結ぶ回路や配線を作る際,必要な材料を最小限に抑えたり,電流の流れる速度の最短化を目指したりする際に応用されているそうです。
傍心,垂心は単独ではなかなか活用が見つかりませんでしたが,例えば三角形の垂心は「重心と外心を結ぶ線分(オイラー線)上にあり,2:1の地点にある」という性質がありますので,外心・重心を用いる場面で活用されている可能性があります。傍心は内心ときわめてよく性質が似ており,考察対象が三角形の外にある場合は,内心と同様の応用ができるようです。
要領を得ませんが,取り急ぎ,調べてみた結果でした。