世の中とは日々移ろい,変化していくものです。
数え切れない変化の中には,「お互いに影響しあいながら変化する」ものがあります。
例えば,日照時間が変化すれば,気温が変化します。
走る時間が変化すれば,走った距離や疲れの度合いが変化します。
片方が変化することによって,もう片方はその影響を受けながら変化しているといえますね。
そうかと思えば,「お互いに何の関係もない変化」というものもあります。むしろ,そういう関係の方が多いかもしれません。
例えば,鹿児島県の人口とナイル川の水量。私の体重と大谷翔平選手のホームラン数。今日の風の強さと数学の成績などなど。
「風が吹けば桶屋が・・・」
の例えもありますから,これらがお互い,絶対に無関係かといわれると自信はありませんが,直接的に影響を及ぼしあっている変化というには無理があるものばかりですね。
お互いに影響しあいながら変化する2つの数量を数学では「ともなって変わる量」と呼びます。
「ともなって変わる」2つの量のうち,より相手に与える影響が強い方を「独立変量」,相手から影響を受けやすい方を「従属変量」といいます。
例えば先ほどの「日照時間と気温」の例。
「日照時間が増えたせいで,気温が上った」
なら納得がいきますが,
「気温が上がったおかげで,日照時間が増えた」
ということはありませんよね。
「日照時間」の変化の方が,「気温」の変化に与える影響が強いので,前者が独立変量,後者が従属変量ということになります。
そして,数学では独立変量をx,従属変量をyと表すことが多いので,この例では日照時間をx,気温をyとして変化を調べていくことになります。
xとyが出てきましたから,やだなァ・・・と思っている方も多いのでは?
今日のテーマは「関数」。x,yとくれば「関数」。
そして何より,関数といえば数学の中でも1,2を争う嫌われ者です。
関数が苦手,関数のせいで数学が嫌いになった,なんて声もよく聞かれるところです。
しかし,おそらく皆さんは関数のことを誤解しています。
関数とは「y=2x」とか,「y=sinx」とか,xとyの式で表されたものだと思っていませんか?
関数とはグラフのことだと思っていませんか?
関数とはよく分からない直線や曲線を方眼紙の上に書き,やれ交点だ,やれ面積だと小難しい計算をさせられる分野だと思っていませんか?
本来関数とは,そんなに小難しいものではなく,私たちの身近に当たり前に存在するものなのです。
関数とは「ともなって変わる2つの量のうち,ある条件を満たしたもの」のことです。「ある条件」というところが大切ですが,具体的な例で見ていきます。
先ほどの話に戻りますが,「ともなって変わる2つの量」。いくつか例を示してみると,
(1)x:日照時間, y:気温
(2)x:あるお菓子を買った個数, y:合計の値段
(3)x:私の身長, y:私の体重
(4)x:長方形の面積, y:そのときの長方形の縦の長さ
(5)x:内閣支持率, y:その政党の支持率
などがあります。
ここにあげた5つのうち,「関数」と呼ばれる関係にあるのは,たった1つしかありません。
それは(2)です。
(2)は関数であるといえますが,残りはともなって変わる量ではあるものの,関数と呼べるものではないのです。
みなさん,(2)が他と違って満たしている「ある条件」,なんだかお分かりになりますか?
(1)について,今日のある地点の日照時間が7時間だったとしましょう。そのときの同じ地点の最終的な気温が28度になったとしましょう。もしも翌日の日照時間がたまたま7時間だったとしたら,気温も同じく28度だといえるでしょうか?
(3)について,私の身長が167センチであったら,体重は必ず63キロになるでしょうか?
(4)について,長方形の面積が20平方センチのとき,縦の長さは必ず4センチだといえますか?
(5)について,内閣支持率が20%のとき,その政党の支持率はきちんと1つに定まるでしょうか?
そうなのです。(1),(3),(4),(5)は,xを1つ定めても,yが1つには定まらないという欠点があります。
それに対して(2)はどうでしょうか。あるお菓子(例えば100円)を4個買ったときの合計の値段は,「400円」ときちんと定まるではありませんか。
「ともなって変わる2つの量」が「関数」と呼ばれるために満たすべき「ある条件」とは,「xが定まれば,yが1つだけきちんと定まる」ということだったのです。
1つの入力に対して,出力が1つしか出てこない。
Aと言ったらB,Cと言ったらDという風に,きちんと答えが帰ってくる。
一方がAのときにもう一方がBだったりCだったりDだったりしてハッキリしない,なんてことがないのが「関数」という関係なのです。
そう考えてみると,世の中で関数と呼ばれる関係は意外と少なく,簡潔でお互いに強く関係を持った関係であることがわかります。
「x円払ったときの消費税y円」,「時速xキロで5時間走ったときの距離yキロメートル」,「xメートル上空での気温低下がy度」といったものは全て関数ですが,これらはいずれも数式化することで,グラフをかいたり,現実には実験できない値を当てはめて結果を予測したりすることができます。
世の中の様々な変化を「関数か否か」で選別処理し,関数であると分かれば数式処理を行うことで,数学的に深く研究することができるようになるのです。
私たちは様々な関係の中で暮らしています。
時にその関係に縛り付けられ,人知の及ばない大きな力の中で翻弄される思いをすることもあります。
しかし,数学は自然界の変化の中に「関数」という,「人知の及ぶ」関係を見出し,それを紙の上の計算で処理することに成功したのです。
自然の全てを数式で処理することは不可能ですが,そのほんの一部に切込みを入れ,その仕組みを垣間見ようとするのは科学の基本的な姿勢です。
関数の発見は,科学の進歩に大きく貢献しているのです。
自然の中の一員として,その渦の中で路頭に迷うことのないように,受験生の皆さん,関数をしっかりと味方につけるべく,がんばっていきましょうね。
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