数学では様々な曲線を学習します。
その中でも一番馴染み深いのは,私たちが一番初めに習う曲線である「円」でしょう。
コンパスを使って上手に円が書けるようになったときの喜びを,今でも私は覚えているのですが,美しい曲線には「数学の中の芸術」ともいうべき,不思議な魅力があふれています。
教育課程によって多少の違いはあるのですが,学校数学で円の次に習う曲線は何かご存知ですか?
それは,双曲線です。
・・・ソウキョクセン? そんなの知らんぞ,という声も聞こえてきそうですが,比例・反比例というのを小学校で学習しますよね。
方眼用紙の上に,比例のグラフ,反比例のグラフというのを書いたのではありませんか?
比例のグラフは定規を使って真っ直ぐに書けるけど,反比例のグラフは点を幾つか取って,何だか縦軸と横軸のほうにへたり込んだような,へばりついたような曲線になったのを覚えていませんか?
あれが双曲線です。
円,双曲線ときて,次に習う曲線は,誰もが知っている有名な曲線。
数学が苦手な人でも知っている「放物線」です。
物体を空中に放り投げたときにできる曲線で,数学では2次関数として知られています。
放物線の内側に向かって飛んできた光は,跳ね返って必ずある1点を通過する性質があるため,パラボラアンテナの断面図は放物線になっていることも有名な話です。そもそも,「パラボラ」という言葉自体が,放物線を意味する言葉です。
ちなみに,明石海峡大橋のように,ロープがだら~んと垂れ下がってできる曲線,あれ放物線だと思っていませんか?
かなり近い曲線ではあるのですが,厳密には「カテナリー(懸垂線)」という別の曲線で,関数としての式も2次関数にはなりません。
高校に入ると,ますます様々な曲線を習いますが,高校数学での一番の有名人ということになると,やはり三角関数を表す「サインカーブ(正弦曲線)」でしょう。
音や波を表現するのに良く使う,波型の曲線です。
長いロープの片方を固定して,もう片方を手で持ち上下に強く動かすと作ることができます。
この曲線,物理分野では頻繁に登場するのですが,私達の日常の意外なところにも潜んでいます。
皆さんが今着てらっしゃるシャツの袖にご注目。
肩と袖との境目の「そでぐり」の部分です。
縫い目を切り取ってはさみで広げてみると,袖の断面が緩やかな曲線になっているはずです。(本当に切って確かめる場合は,自己責任でお願いしますね。怒られないように・・・)
袖の部分は肩の部分に対して「斜めに」縫い付けられているため,丸めたときに断面が楕円になるようにしないと,うまくつなぎ合わせられません。だから縫い目は曲線になり,それこそがサインカーブになっているのです。
ということは,竹に紙を巻きつけて,刀でえいっ!と斜めに切り落とし,紙を広げてみると,サインカーブができることになります。
つまり,円柱を斜めに切断し,広げてみるとそこには三角関数が現れる,ということなのです。
今日は取りとめもなく,曲線のお話を続けていますが,高校以上の数学では本当にたくさんの関数を学びます。関数といえばグラフです。
高校数学の後半は,グラフと曲線の話のオンパレードなのです。
指数曲線,正接曲線,サイクロイド,カージオイド(心臓形),アステロイド,
うずまき線,カテナリー・・・
お医者さんでもらう薬のような名前もありますが,すべて曲線の名前です。「心臓形」なんて仰々しい名前をつけず,「ハート型」といえばかわいいのですが,なぜか教科書には「心臓形」という表現が良く使われます。何だかコワイ・・・
この数ある曲線の中で,最後に紹介するのは,夢の曲線「サイクロイド」です。
タイヤのような円盤を準備します。
タイヤのゴムのところに,ペンを1本くくりつけます。
このタイヤを壁に真っ直ぐ立てかけて,地面の上を滑らないように転がしていくと,くくりつけられたペンが壁に曲線を描いていきます。このときできる曲線をサイクロイドといいます。
正月の鏡餅のような,ガラスについた水玉のような,上に盛り上がったふっくらとした曲線になります。
サイクロイドを上下ひっくり返すと,隕石が落ちた後にできるクレーターの断面図のように,ゆったりと下がってまた上がる,やわらかい曲線になるのです。
この曲線,物理の分野では「最速降下線」として知られています。
サイソクコウカセン???
と,はてなマークが頭の中に一杯浮かんできたでしょうね。
要は,「最も速く降りられる滑り台はどんな形なの?」ということです。
普通の滑り台は斜め45°くらいの「真っ直ぐな直線」ですが,すべり始めが少しスピードに乗り切れませんよね。
滑り始めは,勢いをつけるためにちょっときつめの坂にして,速度に乗ってきたら摩擦の少ない緩めの坂,という風に,変化をつけるともっと速く滑れそうな気がしませんか?
実は,この最速降下線,つまり,最も速く滑り降りることのできる滑り台の形が,サイクロイドを上下逆にした形なのです。
非常に夢のある話があります。
もしも東京-大阪間の地下に巨大なトンネルを掘って,サイクロイド滑り台を準備できたとしたら。
そこを転がるトロッコを作れたとしたら。
8分で行けるんだそうです。東京から大阪まで。
エンジンも,動力も,燃料も何も使わずに。
ちなみにこの計算でいけば,東京-ロンドン間もたったの40分だそうです。
夢のような話だと思いませんか?
もちろん,摩擦も何も考えない場合の話ですし,最高速度はマッハ5~7,工事費用や安全面の問題など,現実的にはまだとても無理なのですが,最速降下線「サイクロイド」の威力を知るには十分なエピソードだと思います。
今年2021年3月,我が故郷,鹿児島までの九州新幹線が全線開通してから10年の節目を迎えました。新幹線の整備は全国各地で計画が進んでいますし,遠くない未来にはリニア新幹線も登場することになるでしょう。
「サイクロイド新幹線」の実現は途方もない夢物語かも知れませんが,こうした夢や発想が,私達の未来を支えてきたのでしょうし,きっとこれからもそうだと思います。
数学の果たす役割は,まだまだこれからも大きなものであると信じたいところです。
真っ直ぐ進むだけが進歩ではない,
曲がりくねった曲線だって,少しずつでも進んでいく。
紆余「曲」折を経ながらも,途切れず進歩していく自分でありたい。
うまいこと言えたところで(???),今回の記事はここまでとさせていただきます。
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